住まいと暮らし、相続に特化したFP会社  1級建築士事務所併設

遺言書の内容では納税ができない事例

広大地(こうだいち)の迷走・・・

 国税庁のデーターによれば平成19年度の被相続人は全国で111万人である。そのうち相続税の課税対象は全国4万7000人で4.2%ほどである。高額な相続税を払った相続人はそのほんの一部の方にすぎないということになる。アパートやマンションオーナーはその高額な相続税を払う相続人の代表者ばかりだ。いわゆる節税や土地活用といった言葉の対象は、この4.2%ほどの地主さんということになる。高額な納税をする地主さんの相続財産の大半は、アパートや駐車場といった不動産ということになる。それも自宅や駐車場用地・市街地農地といった地積が500m²を超す広大な土地でもある。
 

 財産評価の基準になる土地の価格とは時価である。時価とは市場で売れる価格のこと。通常の市街地で売れる土地とは、マイホーム建設のための土地になるわけで、一般的には30坪から50坪程度の土地ということになる。財産評価通達における広大地とは、都市計画法第4条第12項の開発行為により「土地の区画形質の変更」で道路を入れることになる。道路を入れればその土地の有効宅地率が下がる。最終的には、その有効宅地が売却対象になるため売却価格は3割から5割ほど下がることになる。
 改正前の評価通達ではその開発図面を要求したためにほとんどこの通達は生かされてこなかった経緯がある。そして、2003年7月にこの広大地評価は大改正となった。改正後の広大地評価が摘要になるかならないかは、評価が半分になるかならないかということで、土地の評価額においてまさに天国か地獄かともいえる。相続の現場では、土地評価をめぐって広大地の迷走が続き悩ましい問題であることには違いないのである。そこで、地主さんの典型的な相続事例としてBさんの相続問題を考えてみよう。

 

相続税が払えない?・・・。

 アパートオーナーでもあるBさんの相続は、10年前に父親の生前に作成していた公正証書遺言があることで相続問題は何ら問題がないはずであった。しかし現実には、相続税の納税額が当初の想定よりも5000万円も足りないということが判明した。Bさんは、元々は農家だったがそれも祖父の代まで、親の代にはアパートオーナーになっていた。
 相続財産は、預貯金はあまり多くなく、相続財産の大半が土地と建物である。具体的な相続財産である土地の内訳は、自宅1000m²・ファミリーレストランの土地1500m²・時間貸し駐車場の土地500m²と月極め駐車場の土地1200m²とアパート建築地400m²の5ケ所で、相続財産(図表2)の総額は7億円である。ここで問題となった土地は500m²以上のいわゆる広大地である。広大地とは、土地活用した場合に都市計画法でいう開発を必要とする土地のことであるが、開発道路を造成して分譲住宅地にする土地ともいえる。
東京の郊外に住むBさんの土地はそういった500m²以上の広大地が多いのである。問題は、この広大地評価の規定が平成15年に改正されたのだ。Bさんの遺言書は10年前に作成されたもので、この平成15年の広大地評価改正の衝撃をまともに受けた事例ともいえる。

 

致命傷となったファミリーレストラン

 Bさんの相続財産である土地は、広大地の見本のようなものでもある。Bさんの相続における最大の土地評価の問題は、500m²以上の土地の広大地評価のことでもある。実は、相続税における国税庁の財産評価通達における改正広大地評価は、5年前に大改正されたのだ。そこには、思わぬ落とし穴が用意された。単純に500m²以上の土地全てが広大地になるというものではない。
 この広大地評価には、その除外となる要素が次のとおり用意されている。(1)大規模店舗とファミリーレストランの建築された敷地 (2)間口が広く道路に接していて奥行きがない土地 (3)マンション適地(4)容積率300%以上の地域 となる。これらの(1)から(4)の実際の評価は、現場では難しい判断を要する。
 まず最初にBさんの土地には「ファミリーレストラン」の土地1500m²がある。この土地は、遺言書を作成された時点の改正前の広大地評価では概ね4割ほど評価減になる予定であった。しかし、その後の広大地評価の改正では、ファミリーレストランの土地は広大地除外となってしまったのだ。なぜ、ファミリーレストランの土地が広大地評価の除外で評価減がないのかは摩訶不思議といわざるを得ない。
 土地評価の基準はあくまでも時価であるから、「売っていくらになるか」というということを考えれば、土地有効活用としてのファミリーレストランがどうして除外になるのかとても不思議でもある・・。なぜなら、ファミリーレストランのチェーンで今日本中を探してみても土地を購入して経営する直営店舗はまず皆無と思われる。通常、出店企業のファミリーレストランは建物の賃貸か土地の事業用定期借地権かのどちらかである。土地購入しての出店は聞いたことがない。賃貸されたファミリーレストランの土地は、相続等が発生したあと、最終的には建物が解体されその土地はまたあらたな土地利用がされる。郊外の街道に面したファミリーレストランの跡地が相続後売却され戸建ての分譲地になっているケースも多い。土地活用というものは、時代とともに変化していくのである。

 

混沌としているマンション適地の判断

 もう一つのBさんの土地は、マンションが比較的多い場所にある1200m²の月極めの駐車場である。広大地評価の適用除外として、このマンション適地があるのだが、通達は、「明らかにマンションに適している」あるいは「マンションしかない」と解釈するのが通達の読み方である。
 一般的にはこの「マンション適地」は難解で調査が難しい。改正前の広大地評価では、容積率500%以上のいわゆる駅前の商業地域が高度利用地域ということで広大地評価の適用除外となっていたが、5年前の改正で容積率300%以上は広大地評価除外と明記された。
 しかし、マンションと戸建て分譲が混在する地域も含む?と解釈されかねない場合もあるので、このマンション適地の判定は極めてグレイゾーンの評価になってしまうので注意が必要である。Bさんの土地周辺を調査していくと周りのマンションの全ては、土地有効活用としての賃貸マンションであることが判明した。マンション適地でいうところのマンションとは分譲マンションを意味するので、Bさんの土地周辺に分譲マンションは1棟もないということが明らかになり、「マンション適地」ではないと判断された。

 

開発が必要でない土地とは

 Bさんのこの土地の形状は、道路と接する長さは25mで奥行きが20mほどの地積が500m²の土地。Bさんの時間貸しの駐車場の土地は、ひょっとすると広大地評価が除外されてしまう「羊羹切りの土地」ともいえる。羊羹切りの土地とは土地を羊羹切るように区画分けすることである。広大地の定義である「開発をするとした場合に」該当するのかそれとも広大地の除外規定にある「羊羹切りの土地」であるのかが不明である。
 ここでこの土地が「開発を必要とする土地」なのかどうかの判断が問われるわけである。そこで、市役所の都市計画課で調べてみるとBさんの土地は、開発指導要綱では最低区画面積は100m²である。そこで、この土地を羊羹切りで区画をとると奥行き20m×間淵5mの土地となってしまう。これでは建物が建たないことになり、そんな土地はだれも買わないため経済的合理性が失われてしまうことになる。まともな区画にするためには開発をして道路を入れるしかないといえる。
 開発をするということになれば、この土地は広大地となる。もちろん、郊外の土地で最低区画面積200m²ということになれば羊羹切りということもでてくる。また、逆に都心の住宅地であれば、開発指導要綱の最低区画面積は60m²の場合が多いので、その場合には奥行き20m×間淵3mの極端に細長い土地になる。これは明らかに宅地とはいえず当然に開発が必要となり、経済的合理性がないということで羊羹切りは無理と判断できる。結論として、Bさんのこの土地は、「開発を必要とする土地」という判断で、広大地ということになる。

 

遺産分割協議をやりなおしてハッピー相続

 結果的にBさんの広大地と思われた3つの土地は、駐車場の2つは無事広大地として評価することができたが、ファミリーレストランの土地は広大地の適用は除外となってしまった。3つの土地の評価額は、(図表5)のようになった。
 Bさんの土地評価は、路線価も10年前と比べて1割以上も上がっていたが、幸いにも土地の時価もこのミニバブルで高値の取引となり当初想定された相続税の5000万円アップ分は結果的に高値の土地売却で納税が可能となった。むしろ、土地の時価取引が上がったことで10年前に遺言書の内容ではそれぞれの相続人の遺産分割のバランスが崩れてしまった。Bさんはあらためて遺産分割協議書を作成して、無事に円満に相続を終えたのは言うまでもない。やはり、相続はハッピー相続であることがベストである。
 いずれにしても広大地評価の解釈が今後どこへ行くのか不透明な状況の中で、相続人を支援する遺言・相続のアドバイスは、不動産を知ることからはじまるのであり、特に広大地評価についての判断が問われて来る時代ともいえる。