住まいと暮らし、相続に特化したFP会社  1級建築士事務所併設

現在:今まさに相続が発生した相続人の支援

【税理士を紹介してほしい...】

 それはすっかりご無沙汰していたWさんからの電話からはじまりました。「相続になったので、税理士を紹介してほしい」という電話です。電話があったのは葬式も終わり1ヶ月ほど過ぎた頃でした。なんとWさんとはその電話があるまで実は2年ほどご無沙汰していたので恥ずかしながら相続があったことは全く知ることもなかったのです。

 

 Wさんとは久しぶりの再会でしたが、Wさんと出会ったのは数年前にある銀行の資産担当のFPの方の紹介ではじまりました。ところが1年後には、その銀行の担当者も移動になりその後、気が付いたら私がその銀行の支店長にWさんを紹介をしていたという関係になっていました。

 当時のWさんとの出会いの頃は、相続対策としてやれ土地活用だなんだかんだとおきまりの提案書をもっていきました。Wさんは、自宅と自営の工場と残りの土地は全て駐車場と遊休地としていわゆる一切のアパート経営等の有効活用?はしていませんでいた。アパート経営にまったく興味を示さないWさんの当時の本音は将来の相続の納税資金はどうすべきかということの1点でした。納税問題は、当時FPとしての提案は物納すべきかな?という結論でしたので相続問題はそのままになっていました。

 

【広大地評価減で物納より売却が有利に...】

 Wさんの資産内容はすでに全て掌握していましたので、私が手配した相続専門の若い税理士のO氏の第一声は「すでに資料が全部ありますから何も調べることがないですね・・。図面も書いてくれたので助かります。あとは遺産分割と納税ですよね。」というもので、まさにその通りです。
 「まあ、とりあえず測量だけは先にすすめていきましょう。・・・」と、それほど切羽詰まった状況もなくあっという間に時間が過ぎていきました。ところが、納税額が判明して物納する土地は・・各相続人の土地の遺産分割は・・という絞り込みに入ってきました。相続人4人が一同に集まり遺産分割をどうするかの話が本格的になってきて最終的に、
(1)遺産分割は土地を売却して現金化すること
(2)納税は物納でなく売却資金で...
ということに自然になりました。

 納税については、すでに広大地評価<財産評価基本通達24-4・広大地評価(500m²以上の開発を必要とする道路等の公共用地を想定した評価)>(図1)等で評価減することがわかりましたので、物納よりも売却が有利と判断していました。

 

【土地売却の落とし穴?】

 ここまでは簡単なお話なのですが、実は売却には大きな問題があることが判明しました。土地をあらためて役所の開発指導課で調査していくと売却予定したいくつかの土地の中で、売却面積が1000m²にもかかわらず相続人全体の一団の土地として3000m²以上のため売却後の開発には、公園6%の確保が必要となることがわかりました。

 通常500m²以上の土地は当然に開発許可が必要となりますが、一般的には3000m²以上でなければ公園等の公共施設の提供は出てきません。ところが、相続の土地の場合には一団の土地には一部売却でもその全体の一団の面積にて算定する指導です。よく調べて見るとその一団の土地でも残す土地と売却する土地と相続人を変えれば一団と見なさないという指導であることがわかり難を無事逃れました。

 実際の売却予定地1800m²で公園6%(3600m²×6%=240m²)が必要とする開発用地では、売却金額もずばり12%減以上(図2)になってしまい話になりません。実は、こういった開発指導に関することをよく知らずに簡単に遺産分割してあとでとんでもないことになるケースが多いようです。

 

【土地売却のプロセス】

 相続における不動産物件は、一般的な○○不動産・・・といった駅前の仲介不動産業の分野ではないのです。駅前の不動産やさんはエンドユーザー専門の賃貸と中古物件等の仲介で、相続からでてきた開発案件は通常扱いません。

 いわゆる不動産ブローカー(注2)が動くきわめて特殊な取引になります。こういったブローカー物件は、街の不動産やさんでは流通せずにブローカー間で情報が飛び交います。物件情報がFAXでブローカー間を交叉していきます。街の人はもちろんまったく気がつかないのですが、油断するとすぐにこのブローカー仲間では「有名物件と化して」情報がグルグル回ります。

 ブローカーの中には地主が依頼した不動産業者である「ぶつもと」(注3)を飛び越して、地主のところへ夜討ち朝駆けで攻めてくる業者もでてきます。こうなってくるともう大変です。地主とその相続人はもう夜も寝られず仕事にもなりません。

 地主(相続人)の本音はずばり「人知れずすみやかに一発高値で売ること」です。実はこれがなかなか難しいのです。いやむしろ不可能?なのかもしれません。ここでいう「もとづけ」業者とは一般的にいう信託銀行等の金融機関も例外ではありません。

 一般的には全く知られていませんが、不動産関係の金融機関には日々ブローカーが出入りしていてこういった情報を持ち出しています。ブローカーからブローカーへと情報が回ってやっと買い主である開発デベロッパー(注4)へと情報が辿り着きます。

 このように売り主側のもとづけ業者と買い主である開発デベロッパーとの間に何社ものブローカー業者がはいるわけですが、これを業界では「あんこ」(注5)といいます。実はこれが一般的な相続物件の売買取引の現実なのです。

 もちろんこういった流通系統はやむをえないことで決して悪いことではないのですが、いろいろと賑やかに成る分やっかいな問題を引き起こす原因にもなってしまいますのでできれば避けたいところです。今回の地主からの最大に依頼事項はこの1点だったわけです。

 

【相続FPが不動産ブローカーの役割を演じる?】

 つまり従来の取引の慣習にのっていかないわけですから、実際の買い主の探客活動が大変な仕事になります。相続FPは不動産屋さんでもなければもちろん不動産ブローカーでもありません。あくまでも相続FPが仕事ですから依頼人である相続人(地主)の期待を実現することが第一の仕事です。

 その実現のための提案と実践が重要です。不動産屋さんでない相続FPの実力が現実問題として試されるわけです。いよいよネットワークを生かしてデベロッパー情報を集め、買い付けの可能性のあるデベロッパーを絞り込みそれぞれにアプローチしていきます。

 このアプローチすべき開発デベロッパーの絞り込みが最大の難関です。一見景気が良さそうなデベロッパーでも内情は火の車で新規案件の上限制約が何億までとか、今年はもう腹いっぱい?で購入できないとか・・・また販売エリアの変更でその地区はもう買わないとか・・・とにかくもろもろの理由でほんとうに買えるデベロッパーと出会えることが難しいのです。

 そうこうしている内にいつのまにか「有名物件」になってしまって当初の目的である「だれにも気づかれずに・・・売る」というお話はなかったことになってしまいます。気がついたら、ブローカーが相続人のところへ夜討ち朝駆け・・・・となってしまいます。

 相続FPが不動産ブローカーの役割をしたわけですが、このように相続FPが相続物件を取り纏めたらブローカーは廃業になってしまうかもしれません。もちろん相続FPはブローカーになることが目的ではありませんが、相続FPは少なくともブローカーよりも開発や建築の専門知識もありますのでデベロッパーには正確な情報と提案ができることも事実です。

 

【最後は遺産分割の取り纏め】

 相続FPの本業はあくまでも相続のトータルコンサルタントですから、土地の売却はその一連の業務のひとつにすぎません。
相続FPのメイン業務は、
(1)測量士・司法書士との連携で測量・分筆の取り纏めと相続登記
(2)税理士との連携と税理士への助言とその補助業務
(3)納税資金としての土地売却のと取り纏め
(4)遺産分割協議書のアドバイスと取り纏め
(5)農地転用の取り纏め
(6)その他相続人との取り纏め...
 といったかなり多岐にわたる内容の仕事をこなしていくことになります。特に今回の依頼人は、相続人を代表していわゆる長男の方からでしたが... それはいわば遺産分割協議の最終的な取り纏めが本来の最終的な目標になりますし、またその他の相続人にその協議書の印鑑(実印)を確実にもらうことが最大の役割といっても過言ではありません。

 つまり、ブローカーの役割が仮にあったとしてもそれは相続FPが相続案件を処理していく上でのひとつのプロセスにすぎないとということです。相続は、単なる不動産知識だけではできませんので従来の地主さん御用達の賃貸管理をしていた不動産屋さんだけでも無理があります。

 また相続が不幸にして争族になった場合には弁護士が登場してくるのですが、これは納税プロセスということでは問題があります。また、相続における納税を出入りしている税理士に頼むのもまた問題があります。相続のわかる?税理士はまだそれほど多くありません。

 税理士にもそれぞれ専門があるということもよく理解していただくことがFPの最初の仕事です。今回の事例では、実は相続人が会社経営者でしたので相続人の方から「相続問題は専門の税理士へ」ということからスタートできたことが幸運でした。

 もちろん何年も前からそのように啓蒙?していたからかもしれません。相続から納税までの10ヶ月間の時間はあっという間に過ぎていきます。ポイントはいい支援者(専門家)をうまく活用することです。まず相続を専門とする税理士ですが、測量士や司法書士も重要です。遺産分割のリーダーとして各専門家を取り纏め相続人を支援することが相続FP使命となります。

 これからの相続FPは、相続人にとって必要不可欠な存在になってくるものと言えます。この相続FPの活躍する時代にすでに突入していると私は信じています。